そのとき私は1歳でしたから、もちろん記憶はありません。これは私の両親から教えてもらった話です。
両親は結婚して私が生まれたころ古い外国車に乗っていました。どこに行くにもそのクルマで出かけていた私の両親は、私が生まれてからはそのクルマの後部座席にチャイルドシートを取りつけて、私と三人で出かけていました。
そんなある夏の暑い日のことです。私の両親と私は三人で郊外のアウトレットショッピングモールにやってきました。敷地が非常に広いそのショッピングモールは、大きな駐車場があることと、ベビーカーを押しながら買い物をしていても、まわりに迷惑をかけることが少ないのでちょくちょく利用していたそうです。
駐車場にクルマを停めた両親は、いつものように私を連れ出そうと運転席と助手席からいったん下りて、奥部座席のドアを開けようとしました。ところがなぜかドアが開きません。なにかの拍子に後部座席のカギをロックしてしまったのでしょう。内側からカギをあけようと助手席のドアを開けようとした母は、そこも開かないことに気がつきました。
一瞬なにが起きたのか分からなくなり、すぐに父にドアを開けてくれるよう声をかけましたが、そのときすでに父も運転席側のドアが開かなくなっていることに気がついていました。そのとき私はもちろんですが、荷物も自動車のカギもなにもかもが車内に置きっぱなしです。インロックでした。真夏の昼間でしたから車内温度はすぐに上昇をはじめたのでしょう。暑さと不穏な空気を感じて私は泣きだしたそうです。携帯電話もない時代、父は公衆電話を探して走りました。母はただぐったりしていく私を見守るしかなかったのですが、そのとき声をかけてくれたのが偶然近くにいた鍵屋さんです。状況を知った鍵屋さんはすぐに特殊な道具を取り出してドアをこじ開けてくれたそうです。こうして私は鍵屋さんに命を救われました。まさにヒーローのような鍵屋さんです。